コンデンサの機能と役割
~コンデンサの性質と回路での応用~

はじめに

コンデンサは電気回路や電子回路において最も基本的で重要な部品の一つです。回路設計、メンテナンス、品質を担うエンジニアの皆様にとって、回路におけるコンデンサの機能と役割を知ることは、重要で必要不可欠といえるでしょう。

回路では数多くのコンデンサが使われていますが、それらはコンデンサの基本的な性質を応用して、回路や電子機器の機能を高めています。本稿では、コンデンサの性質と回路での応用を説明しながらコンデンサ選びのポイントや気を付けたいことがらを解説していきます。

目次


そもそもコンデンサとは

歴史と名前の由来

コンデンサは一時的に電気エネルギーを蓄える機能を持ち、現在のエレクトロクスには必要不可欠なデバイスです。その歴史は18世紀に遡ると言われています。1745年、プロシアのクライスト(E.G. von Kleist)が、ガラス瓶に酸性溶液(電解液)を入れて電極を浸漬し、ガラス瓶の外側に金属箔を巻いた装置で蓄電と放電を実験しました。翌年には、オランダ・ライデン大学のミュッセンブルック(Peter Van Muschenbroek) が、ガラス瓶の底と側面の両面にスズ箱を張ったキャパシタで、ふたの中央を通して入れた金属棒の先端に鎖をつなぎ、底のスズ箱と接触させた装置を開発し、これを用いて放電実験をしたと言われています。後にこれらの装置はライデン瓶に進化し、1752年、アメリカ・フランクリンによる雷が電気であることを証明する実験に使われました。当時は電気は凝縮(condense)できる流体と考えられていたため、電気を溜める装置をコンデンサ(condenser)と呼びました*01, *02

日本ではコンデンサとして呼ばれることが多いですが、欧米では電気を溜める容量(capacity)を持つデバイスとしてキャパシタ(capacitor)と呼ばれています。

図1 ライデン瓶の概観・構造と静電気のイメージ
図1
ライデン瓶の概観・構造と静電気のイメージ*03

コンデンサの構成はシンプル

コンデンサを表す回路記号は、平行な線が二本書かれたものが使われています。これはコンデンサが2枚の平行な導体板電極から構成されていることを表しています。正負の極性がある電解コンデンサは、プラス側に+の記号が記載される場合もあり、表記方法は日本(JIS)、アメリカ(EIA)、欧州圏(EU, IEC)各国によって違いがあります。

図2 コンデンサの回路記号
図2
コンデンサの回路記号

容量とは電気エネルギーを溜める能力のこと

コンデンサに蓄えられる電荷Qは電圧Vに比例します(式(1))。比例定数Cは電気エネルギーを溜める能力を意味する静電容量です。静電容量は、電極の面積が広いほど、また二枚の電極板の距離が近いほど大きく、式(2)のように表されます*05

電極板は絶縁材料によって電気的に分離されています。この絶縁材料を誘電体と呼びます。コンデンサに電圧を印加すると、極板が帯電して電極間に電位差が発生します*06 。ただし印加される外部電界が誘電体の臨界電圧(絶縁破壊電圧)を超えないことが条件です。この電圧を超えるとコンデンサは絶縁体ではなくなり、抵抗が急激に低下し大電流が流れてしまいます。

図3 容量と絶縁抵抗の模式図
図3
コンデンサの充電のイメージ
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コンデンサの基本的な性質

コンデンサには3つの基本的な性質があります。これらの性質を応用することでコンデンサは回路のさまざまな機能を実現しています。本章ではコンデンサの基本的な性質を他の受動部品(抵抗とインダクタ)と比較してご説明します。

コンデンサは電気エネルギーを蓄え、放出する

コンデンサは外部から電圧を印加することで電気エネルギーを静電気として蓄えます。図4(a)の状態からスイッチSW1を入れて、コンデンサに直流電圧Vをかけると電流が流れて一瞬で電極に電荷Qが溜まります(図4(b))。スイッチを切って電圧を取り除いても電極に蓄積された電荷はそのまま残ります(図4(c))。両極板上の電荷が蓄積されてコンデンサに電圧を保持します。

図4 直流電圧によるコンデンサの充電
図4
直流電圧によるコンデンサの充電

充電されたコンデンサを負荷Rに接続すると電荷が放出され、電極の電位はゼロになります(図5(b))。ただし放電のスピードは負荷の抵抗によって異なり、抵抗が大きいほどゆっくり放電します。

図5 コンデンサの放電
図5
コンデンサの放電

コンデンサは直流電流を通さず交流電流を通す

前節のようにコンデンサに直流電圧をかけると一瞬で電極板に電荷が溜まり、それ以上は電荷が動くことはありません。つまりコンデンサは直流の電流を一瞬で食い止めるのです。

ところがコンデンサに交流電圧をかけたときには様子が変わります。交流電圧は常に電圧のプラス・マイナスが入れ替わるからです。図6(a)のようにコンデンサに電圧が印加されると、電圧がピークに達するまでコンデンサに電流が流れ込んで電荷が溜まります。電圧がピークを越えて下降に転ずると溜まった電荷が放電して、電圧がゼロになるまで先ほどとは逆の方向に電流が流れます(図6(b) : 時計回り)。電圧が反転すると逆方向に電流が流れて再びコンデンサに電荷が溜まります(図5(c) : 時計回り)。その後、電圧がゼロに移行していくと、放電によって電流が流れます(図6(d) :反時計回り)。このように、交流では電界の切り替わりにより充電と放電を繰り返します。このため絶縁体を電流が通過しているわけではないのに、あたかも交流電流が流れているように見えるのです*07

図6 コンデンサの放電
図6
コンデンサに交流電圧を印加したときの電圧と電流

この性質を利用すると、指定された周波数と波形の交流電流と電圧を通過させたり、阻止することができます(フィルタ)。また高速のスイッチングが発生するデジタルロジック回路では、スイッチングによる電流の変動で電圧が変化する場合があり、それによってノイズやエラー信号が発生します。コンデンサはこのような電流変動を安定させ、ノイズ信号を最小限に抑える働きをします*08

交流回路のコンデンサでは電流が電圧より早く進む

前節で述べたように、交流電源にコンデンサを接続したときの電圧と電流の波形は図7のようになります。電流と電圧の周期は同じですが、電流は電圧より1/4周期早く進みます。

図7 コンデンサに交流電圧を印加したときの電圧と電流の位相のずれ
図7
コンデンサに交流電圧を印加したときの電圧と電流の位相のずれ

このとき、回路に流れる電流を i(t) 、コンデンサの電荷を Q(t) とすると、両者の関係は、

となります。電荷の時間的変化(電荷の時間微分)は電流と等しいので、(03)式は(04)式に書き換えることができます。

電圧波形は正弦波であるため、定常状態では式(05)のように書くことができます。

式(05)を時間で微分すると式(06)となるので、式(04)と式(06)とを組み合わせて式(07)を得ることができます。

式(07)は交流電流が余弦関数(cos)であることを示しています。これを正弦関数に書き直すと式(08)のようになります。式(08)は交流電流の位相が電圧よりπ/2 [rad](=90°)だけ位相が進んでいることを示しています。

交流電源にコンデンサを接続することで、電圧より電流が早く進む性質を利用すると、単相モータを始動することができます。詳しくは次章「交流電流が電圧より位相が早く進む性質を利用する」でご説明します。

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コンデンサの機能と役割

前項で説明したコンデンサの性質を利用することで、回路はさまざまなはたらきを持つことができます。本章では回路におけるコンデンサの役割をご説明します。

瞬時に充電・放電できる特性を利用する
Energy Storage/ Fast Discharging

コンデンサは、電源からのエネルギーを電荷として電極に蓄えて、その電気エネルギーを回路に供給するデバイスです。一見するとバッテリと似たはたらきですが、バッテリは電気化学的プロセスを用いてエネルギーを蓄積するのに対し、コンデンサは電荷を静電気として物理的に蓄積するという違いがあります。そのため、コンデンサは電池よりもすばやく蓄電し、エネルギーをすばやく放出することができます。

コンデンサに蓄積されるエネルギーWの量は、電極に蓄積される電荷の量に依存し(09)式で表すことができます。

W はコンデンサに蓄えられたエネルギーで単位はジュール[J]、Q はコンデンサに蓄えられた電荷量[C]、C は静電容量[F]、V はコンデンサに印加される電圧[V]です。すなわちコンデンサに蓄えられるエネルギー量は、コンデンサに印加する電圧と静電容量に依存します。

このことは、容量と電圧を組み合わせることでエネルギーの量を自由に選択することができることを意味しています。したがって、エネルギー貯蔵が必要な場合や所定のエネルギーを維持したいときに、コンデンサは適切な部品です。また電池に比べてコンデンサは内部抵抗が低いため、蓄積されたエネルギーはコンデンサから素早く放出されます。この性質を利用すると、コンデンサを電源として活用したり、電源の機能を高めることができます。その具体的な事例をご説明します。

ストロボフラッシュ

ストロボフラッシュには、キセノン・フラッシュランプが使用されています。撮影前にカメラ内部の特殊な回路を使って、内部のコンデンサを数百ボルトに充電しておきます。

カメラのシャッターボタンが押されると、コンデンサの放電によりほぼ瞬時にキセノン・フラッシュランプに大電流が供給され、非常に短い電流パルスが発生します。コンデンサからのエネルギーは約1ミリ秒で閃光に変換されます。フラッシュが使用されると、コンデンサは瞬時に再充電され次の撮影ができるようになります。バッテリでは、このような大電流を短時間で供給することはできません。

図8 キセノンランプ型ストロボフラッシュの構成
図8
キセノンランプ型ストロボフラッシュの構成

自動体外式除細動器(Automated External Defibrillator, AED )

自動体外式除細動器(AED)は、心停止の際に機器が自動的に心電図の解析を行い、心室細動を検出した際に除細動を行う医療機器です。除細動とは心臓がけいれん(細動)した状態を「取り除く」ことを指しますが、AEDは心臓に電気ショックを与えることで除細動を行います。そのエネルギー源にアルミ電解コンデンサやフィルムコンデンサが使われています。

図9 自動体外式除細動器(AED)の構成
図9
自動体外式除細動器(AED)の構成*10

患者に与えられる電気ショックは、約5,000Vの電圧で充電されたコンデンサのエネルギーが使われ、最大50Aの電流を数ミリ秒間、胸郭を通して供給されます。エネルギーは30ジュールから400ジュールと言われています。瞬時に大きなエネルギーを供給できるコンデンサに好適なアプリケーションです。

無停電電源装置(Uninterruptible Power Supply, UPS )

UPSとは、蓄電池やコンデンサなどに蓄えられたエネルギーを使って、とぎれることなく負荷に電力を送る電源装置です。

常時インバータ給電方式のUPS装置は、入力の交流電力を直流に変換するコンバータや、直流電力を交流電力に変換するインバータなどで構成されています。コンデンサはACDCコンバータとインバータの間にバッテリと並列に配置され、エネルギー貯蔵と供給電圧フィルタリングして電圧の変動を平滑化する役割を担います。すなわち主電源が途切れて電力供給がバッテリに移行する場合、コンデンサが数十m秒程度の短期的なエネルギーを提供します。これはコンデンサの充放電性能を活かした使い方です*11

図10 UPSの基本的な構成(常時インバータ給電方式の事例)
図10
UPSの基本的な構成(常時インバータ給電方式の事例) *12

パルス電源(Pulsed Power Generator )

パルス電源はマイクロ秒やナノ秒という短時間に瞬間的な大電力を出力する電源装置です。パルスパワーの発生は、必要なエネルギーをコンデンサやインダクタに蓄積し、その後適切なスイッチング制御によって必要な時間幅圧縮およびパルス出力を供給します。パルス電源はX線発生装置、溶接機、エキシマレーザー、紫外線光源、高周波プラズマトーチなどに応用され、半導体製造装置、医療機器、環境関連機器、加速器*13などに搭載されています。

パルス電源におけるコンデンサの役割はエネルギーバッファであるため、大容量のコンデンサが使われます。またこのアプリケーションでは充放電が繰り返され、放電におけるコンデンサの電圧降下に応じてコンデンサが選択されます。すなわち完全放電する場合はフィルムコンデンサが有利です。最大動作電圧の30%から40%の範囲での放電であれば、アルミ電解コンデンサを使用することができます。

図11 インバータ方式X線発生装置の基本的な構成
図11
インバータ方式X線発生装置の基本的な構成*14

運動エネルギー回生(Kinetic Energy-Recovery System)

通常の車は、走行時の運動エネルギーを停止する時に熱に変換しています。電気自動車やハイブリッドカーでは停止時には失われるエネルギーを電気エネルギーとして貯蔵し再利用します。しかし、バッテリではエネルギーを素早く吸収(充電)できないため、コンデンサが充電をアシストする技術が使われています*15

図12 EVパワートレインの基本的な構成
図12
EVパワートレインの基本的な構成

入力電源平滑(Smoothing)

日本の電力網では、周波数50Hzもしくは60Hzの正弦波交流電圧が供給されています。しかし多くの機器は直流電圧で動作するため、これらの機器を使用する際には、事前に交流電圧を整流する必要があります。図13のように整流回路には4個のダイオードで構成されたダイオードブリッジ整流器が主に使われます*16

図13 入力電源平滑回路の基本的な構成と電圧波形
図13
入力電源平滑回路の基本的な構成と電圧波形

しかし、ダイオードブリッジから出力される電圧は直流とは言い難く、リプルとも呼ばれる脈動する電圧です。この電圧を "平滑化" するためにコンデンサ(平滑コンデンサ)が使われます。コンデンサに充電された電荷が、負の半波の期間に放電することで、電圧を半波よりも穏やかな波形にします。降圧するとコンデンサが放電して波形を持ち上げます(図14)。放電とともにコンデンサの電圧は低くなりますが、再び波形が昇圧するとコンデンサが充電されます。このようにコンデンサはエネルギーや電荷を蓄えます。蓄えられた電荷は、コンデンサの電極間に電位差を生じさせます。この電位差により、コンデンサは回路内で電圧源としてはたらきます。

コンデンサは完全な直流電圧を作り出すわけではありませんが、ほとんどの機器が作動できるレベルまで電圧を平滑化することができます。現在では、コストとスペックバランスの良いアルミ電解コンデンサが多く使われています。

図14 コンデンサによる電圧の平滑化
図14
コンデンサによる電圧の平滑化
図14 コンデンサによる電圧の平滑化
図14
コンデンサによる電圧の平滑化

リプル電圧ΔVripple と平滑コンデンサの容量Cは、式(10)式で表すことができます。リプル電圧を小さくするために*17、容量の大きいコンデンサが必要です。所望のリプル電圧が得られるコンデンサの選定が重要ですが、同時に入力電圧、コンデンサの寸法、コストを考慮することが必要です。

直流高電圧発生装置他(DC High Voltage Generators)

高圧の直流電圧で充電されるコンデンサ*18は、フィルタ作用や直流充放電作用の機能を発揮して下表に示すようなさまざまの用途に使われています。

捕虫器(Bug zappers)

捕虫器は、カスケード昇圧器と呼ばれる回路にダイオードとコンデンサ*19を使用し、電源電圧を約2kVまで上昇させます。虫がカスケードの2つの端子間をショートさせると、コンデンサからエネルギーがほぼ瞬時に放出され捕虫します。

直流をブロックし交流をパスする性質を利用する
DC Blocking / AC Passing

コンデンサは、直流電圧によって電荷を蓄えて直流電流をブロックします。交流は電圧の向きが交互に切り替わるので、充電と放電が繰り返されて交流電流がコンデンサの中を通過していると見なすことができます。本稿では、これらのコンデンサの性質が回路に与える機能を解説します。

アナログ回路でコンデンサと抵抗を組み合わせる

カップリング Coupling

コンデンサを使うと、直流と交流が混在した信号から交流成分のみを取り出すことができます。図15のように電子回路で前段と後段をコンデンサで直列につなぐことで、直流成分の伝達をブロックし、信号に直流バイアス電流が混在するのを防ぎます。このコンデンサをカップリングコンデンサ(結合コンデンサ)と言います。

図15 カップリングコンデンサの働き
図15
カップリングコンデンサの働き

カップリングコンデンサはアナログ回路の増幅器に広く使用されています。図16の増幅回路では、コンデンサCで前段のトランジスタと後段のトランジスタを結びつけ、バイアスなどの直流が混在しないようにしています。このようなアプリケーションでは、信号は直列接続されたカップリングコンデンサを通してトランジスタのベースにつながります*20,*21。また、コンデンサの容量は、直流成分を遮断しつつ、例えば音声のような有用な信号が自由に伝搬できるように選択されます。

図16 増幅回路の例
図16
増幅回路の例
デカップリング (バイパス)Decoupling (Bypass)

電源ラインとグランドの間にコンデンサを接続すると、回路を電源から分離したり回路間の結合を取り除いたり(decoupling)して、電源ノイズが回路に入るのを阻止することができます。

アナログ回路では、図17のように抵抗とコンデンサを組み合わせてRC回路を作ることで、電源電圧の交流成分をフィルタします。このコンデンサを電源デカップリング用バイパスコンデンサ(デカップリングコンデンサ)と呼びます**22。このコンデンサはICが発振して過熱したり誤動作が起こるなどのトラブルを防止します。

図17 アナログ回路のデカップリング
図17
アナログ回路のデカップリング

図18の回路では、C2,C3がデカップリングコンデンサです。C2は抵抗R2と組み合わせることで、電源を通じてドランジスタTr2の信号がトランジスタTr1の回路に戻るのを防ぎます。C3は交流成分は通して、R3に発生する電圧が変動しないようにします。

図18 デカップリングコンデンサの例
図18
アナログ回路のデカップリング
C2,C3がデカップリングコンデンサ

コイルと組み合わせて必要な信号を取り出す

コンデンサは高い周波数の交流ほど通しやすく(インピーダンスが低く)、コイルは周波数が高くなるほど交流を通しにくく(インピーダンスが高く)なります。コンデンサとコイルを組み合わせた回路に交流電流を流すと、コンデンサとコイルのインピーダンスが等しくなる周波数の時に共振という現象が起こります*23

図19 並列共振回路のインピーダンス
図19
並列共振回路のインピーダンス
*対数スケール, 任意目盛
コンデンサとコイルの並列接続

コンデンサとコイルを並列に接続した回路で共振現象が発生すると共振周波数での合成インピーダンスが無限大になります(図19)。

コンデンサとコイルを並列に接続した回路に信号電流を流すと、コンデンサは高周波成分を通過させ、コイルは低周波成分の電流を通します。コンデンサとコイルを通過した信号はアースに流れていきます。

共振周波数ではインピーダンスが無限大となるため、共振周波数に等しい交流電流は出力側に流れます。コンデンサの容量とコイルのインダクタンスを適切に組み合わせることで、特定の周波数を持つ信号を選択的に通過させる同調回路となるのです*24

図20 並列共振回路と共振周波数
図20
並列共振回路と共振周波数
コンデンサとコイルの直列接続

コンデンサとコイルが直列接続しているときの共振周波数では、コイルの誘導性リアクタンスとコンデンサの容量性リアクタンスが等しくお互いに打ち消し合います。このため回路の抵抗成分だけとなりインピーダンスは最小となります。

図21 直列共振回路
図21
直列共振回路
図22 直列共振回路のインピーダンス
図22
直列共振回路のインピーダンス
*対数スケール, 任意目盛
コンデンサとコイルを組み合わせる

コンデンサとインダクタは全く逆の性質をもった受動部品です。コンデンサとインダクタは、それぞれ単独でもノイズ除去効果がありますが、2つの部品を組み合わせることで、大きなノイズ除去効果が得られます。直列接続したインダクタは高周波ノイズを遮断し、並列接続されたコンデンサで高周波ノイズをバイパスさせるように働きます。

ローパスフィルタ(LPF)

直流や低周波の信号を通過させ、高周波の信号をカットするフィルタ回路です。最も広く使われるフィルタ回路であり、主に高周波ノイズのカットに使用されます。またオーディオでは低音用スピーカーの高音/中音成分カットに使用されます。

図23 ローパスフィルタ(LPF)
図23
ローパスフィルタ(LPF)
ハイパスフィルタ(HPF)

直流や低周波の信号をカットし、高周波の信号を通過させるフィルタ回路です。可聴域の低周波ノイズのカットや高音用スピーカーの中音/低音成分カットなどに使用されます。

図24 ハイパスフィルタ(HPF)
図24
ハイパスフィルタ(HPF)
バンドパスフィルタ(BPF)

特定の周波数の信号のみ通過させ、それ以外の周波数の信号をカットするフィルタ回路です。ラジオの選局(周波数合せ)や中音用スピーカーの低音/高音成分カットなどに使用されます。

図25 バンドパスフィルタ(BPF)
図25
バンドパスフィルタ(BPF)

不要で有害な交流(ノイズ)を取り除く

電源ラインのノイズ

私たちの家に供給される電力には、純粋な電圧や電流ではなくノイズという不純物が含まれています。ノイズとは回路内の必要な信号や望ましい信号が抑制された不要な信号で、さまざまな周波数の交流の集まりです。とくに商用電源周波数(50Hz、60Hz)に規定の周波数以外(高周波成分)が重畳すると回路が正常に動作しなくなり、過度なノイズは回路やシステムに大きなダメージを与えてしまいます。このため電子機器の安定な作動にはノイズ対策が極めて重要です*25

ノイズには、電磁波としての輻射ノイズ*26と配線を伝わる伝導性ノイズがあります。伝導性ノイズは電源ライン、アース線、回路や機器の間の信号ラインに存在します(図26)。コンデンサは、単独もしくはコイルや抵抗と組み合わせたEMIフィルタとして伝導性ノイズを除去する役割を果たします。

図26 伝導性ノイズ
図26
伝導性ノイズ

また伝導性ノイズは、ライン間を伝わるノーマルモード(Normal mode 又はディファレンシャルモード Differential mode)とライン-アース間を伝わるコモンモード(Common mode)に分類されます。

電源ラインのノイズに対しては、商用電源周波数(50/60Hz)に重畳する高周波分を除去するローパスフィルタ(LPF)を使用します。このフィルタは主にコンデンサとコイルが使われ、高周波に対するコンデンサのインピーダンスの低さと、コイルのインピーダンスの高さを組み合わせています。

電源ラインのノイズフィルタの基本構成を図27に示します。ここに使われるコンデンサは、ライン電圧ノイズから機器を保護するだけでなく、回路内部で発生するノイズから同じライン上の他の機器を保護するために、多くの家電製品や産業用負荷に使用されています*27

図27 電源ラインの伝導ノイズ除去に使われるXコンデンサ、Yコンデンサ
図27
電源ラインの伝導ノイズ除去に使われるXコンデンサ、Yコンデンサ

Xコンデンサは入力のラインを横切って接続されます。Xコンデンサの役割は、電源ラインに重畳したノイズを減衰させることです。Xコンデンサの静電容量は通常1µFから10µFのポリプロピレンタイプのフィルムコンデンサが使用されます。ただし電源ラインがDCの場合は、電解コンデンサなどの極性コンデンサを使用することもあります。

Yコンデンサは、ラインとアースの間に接続されます。シャーシ自体が電磁シールドとして機能し、外部のRF干渉から電気器具を保護することができます。Yコンデンサは、機器の使用や用途によって0.001µFから1µFまでの幅広い静電容量が使われ、特性の変化が小さく、故障モードがオープンになりやすいフィルムコンデンサが使われます*28

XタイプとYタイプのコンデンサは、誤動作時の火災や人身事故の危険性があるため、IEC 60384-14、UL 1414、UL 1283、CAN/CSA C22.2 No.1、CAN/CSA 384-14などの様々な規格があります。

グリッチ(Glitch)

定格を超える一瞬の不確実なピークが機器やシステムを襲うと故障や破壊が起きます。このため突然のグリッチ(Glitch)*29を補償することが必要です。コンデンサは、不確実なグリッチをブロックし、システムを保護するのに役立つ部品です。

とくに雷サージや開閉サージは、その大きさ(波高値)が大きく、その立上り(波頭長)が急峻なことが特徴で、立上りの周波数がきわめて高いため、このサージ電圧が変圧器や回転機のように巻線を有する機器に直接印加されると、それらの絶縁が脅かされます。このため、サージ吸収用コンデンサ(Surge absorbing capacitor)を送配電線路と大地間に接続して、線路に伝搬してきた雷サージや、遮断器などの開閉時に発生する急峻なサージ電圧のピーク値を低減しその波頭長を延長して緩和して、変圧器や回転機などを保護します。

実際には送配電線路、巻線機器、およびコンデンサそれぞれのサージインピーダンスによって、緩和の程度は異なりますが、通常、波高値を数分の1から10分の1程度、波頭長を数10から100倍程度に延長できるコンデンサが選ばれます。またコンデンサのサージインピーダンスが小さいほど緩和効果が大きいので、コンデンサの内部インダクタンスを小さくする必要があり、そのために設計上特別の配慮がなされています。

図28 サージ吸収用コンデンサと接続と製品の例
図28
サージ吸収用コンデンサと接続と製品の例*30

充放電と交流をパスする性質を組み合わせて利用する
Energy Buffering / AC Filtering

デジタル回路のデカップリング

デシタル論理回路では、ON/OFFのスイッチングで比較的大きいノイズが発生します。このためには集積回路(IC)毎に高周波デカップリングコンデンサをつけています*31

またデカップリングコンデンサは、局所的な電気エネルギーの貯蔵庫として機能して、電圧の急激な変化に対応します。すなわち入力電圧が突然低下した場合、コンデンサはICの電圧を安定に保つためのエネルギーを供給します。同様に電圧が急上昇した場合、コンデンサは過剰なエネルギーを吸収します。またデカップリングコンデンサは、電圧スパイクをフィルタリングし、信号の直流成分のみを通過させるためにも使用されます。

つまり、コンデンサは①直流電圧をできるだけ滑らかにし、②ノイズをシャント(吸収)する働きを担っています。言い換えるとコンデンサは、1つの回路基板、あるいは基板上の1つの部品専用の小型無停電電源装置とみなすことができるのです。使用する集積回路ごとにコンデンサを1つずつ用意することも珍しくなく、高速で動作するマイクロプロセッサを使用するデジタルシステムでは、基板上のほとんどすべてのコンデンサがデカップリングに使用されることもあります*32

デジタル回路の経験則では、各ロジック集積回路に数百nFのセラミックコンデンサと、基板や回路セグメントごとに大きめの(最大数百μFの)電解コンデンサがそれぞれ数個ずつ使用されます。容量が大きい電解コンデンサは、回路のエネルギーのほとんどを蓄え、低周波をデカップリングします。しかし、電解コンデンサは高周波特性が悪いため、高周波で動作するロジックゲートに対しては、セラミックコンデンサがより優れたデカップリングを提供します。

図29 回路とデカップリング
図29
回路とデカップリング
図29 回路とデカップリング
図29
回路とデカップリング

電源回路のDCリンク

パワーエレクトロニクスの電源回路は、整流器やコンバータなどの入力回路とインバータなどの出力回路とを直流で接続することがあります。この2つの回路間の接続はDCリンクと呼ばれ、 DCリンクにはアルミ電解コンデンサやフィルムコンデンサが使われます。

図30 電源回路のDCリンクコンデンサ
図30
電源回路のDCリンクコンデンサ

これらのコンデンサは、以下のような機能と役割を果たしパワーエレクトロニクスシステムの効率化に大きく貢献しています*33

リプルの除去・平滑化

電力変換プロセスでは、直流電圧出力に変動やリプルが生じます。DCリンク上の大容量コンデンサは、このような電圧リプルを平滑化し、負荷へのより安定した一定電圧供給を補償します。

エネルギーバッファ

DCリンク上の大容量コンデンサはエネルギー貯蔵器として機能し、負荷需要が低い期間中に余剰エネルギーを貯蔵し、負荷が追加電力を必要とするときにエネルギーを放出します。このエネルギーバッファリング機能により、システムの全体的な効率と性能が向上します。

サージ抑制

パワーエレクトロニクスシステムは、パワーデバイスのスイッチング時や外乱時に電圧サージや過渡現象に遭遇することがあります。DCリンク上に大容量コンデンサが存在することで、これらの電圧サージを吸収・抑制し、繊細なコンポーネントを損傷から保護することができます。

交流電流が電圧より早く位相が進む性質を利用する
Phase Shifting

コンデンサを流れる交流電流が電圧より90°位相が進む性質を応用したものに、単相交流モータを起動させる機能があります*34

単相交流モータは、コイルが作る磁界が回転し(回転磁界)、これを追いかけるするようにロータが回転します。しかし単相電源では回転磁界が得られず、上下や左右に切りかわる磁界(交番磁界)ができてしまいます。

モータには主コイル(Main winding)と始動コイル(Start winding)の2系統のコイルが巻かれており、始動コイルにはコンデンサが直列に接続されています(図3-24)。この回路に単相交流電源を接続すると、コンデンサを通して始動コイルに流れた電流と主コイルに流れる電流が位相のズレを起こします。すなわちコンデンサは90°進んだ位相電源を作り出し、元の電源(主コイル)とコンデンサで作り出した始動コイルの電源の二相で回転磁界を作り出します。これによりロータが回転磁界に追従するようになるので、思い通りに回転方向を定める事ができます*35

図31 モータの基本回路と始動コンデンサを流れる電流の位相
図31
モータの基本回路と始動コンデンサを流れる電流の位相
図31 モータの基本回路と始動コンデンサを流れる電流の位相
図31
モータの基本回路と始動コンデンサを流れる電流の位相

すなわちコンデンサの役割は、主コイルに対して始動コイルに流れる電流を遅らせることです。ちなみにロータが十分な速度に達すると、補助コイルは遠心スイッチによって回路から切り離され、モータは脈動磁界を発生させる単一のコイルによって電力を供給されたままになります。単相ACモータの設計の中には、始動コンデンサが遠心スイッチによって切り離された後も、補助コイルに接続されたままのモータ運転用コンデンサを使用するものがあります。モータ運転用コンデンサは、モータに電力が供給されているときは常に電力が供給されたままであるため、電解コンデンサではなく低損失のフィルムコンデンサが使われます*36

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まとめ

本稿でご説明したコンデンサの基本的な性質とそれらを応用した機能と役割を下記の表に示します。当社のコンデンサ製品は、各種産業機器用インバータ、再生可能エネルギ、スイッチングモード電源などのDCリンクや、無停電電源装置などのエネルギーバッファなどに豊富な実績があります。ただし機器の設計や使用環境により、コンデンサに要求される性能が変わります。ご不明の点がございましたら、ぜひエーアイシーテックまでお問い合わせください。最後までお読みいただきありがとうございました。


監修/飯田 和幸
エーアイシーテック株式会社 ゼネラルアドバイザー

1956年埼玉県生まれ。
日立化成株式会社、日立エーアイシー株式会社にてコンデンサの製品開発と高機能化、コンデンサ用の金属材料や有機材料開発、マーケティング業務に従事。
広報誌、業界誌、各種便覧等にコンデンサに関する記事を寄稿。
2005年から2015年まで株式会社 日立製作所 技術研修所でコンデンサの使い方に関する講座を担当。
2020年よりエーアイシーテック株式会社 ゼネラルアドバイザー。

【主な寄稿・登壇実績】
  • 「タンタル電解キャパシタ」
    電気化学会編 丸善 電気化学便覧 第5版 15章 キャパシタ 15.2.4節 b (1998)
  • 「タンタル・ニオブコンデンサの開発動向と材料技術」
    技術情報協会セミナー 2008年6月
  • 「鉛フリー対応表面実装形フィルムコンデンサ MMX-EC, MML-ECシリーズ」
    日立化成テクニカルレポート 48号 製品紹介 (2007)
  • 「電子機器用フィルムキャパシタ」
    丸善 キャパシタ便覧 第5版 5章 フィルムキャパシタ 5.2項 (2009)
  • 「新エネルギー用大型フィルムコンデンサMLCシリーズ」
    新神戸電機株式会社 新神戸テクニカルレポート 22号(2012)