コンデンサを正しく安全にお使いいただくための
コンデンサ特性の基礎知識 ~インピーダンス~
はじめに
コンデンサは電気回路や電子回路において最も基本的で重要な部品の一つです。回路設計、メンテナンス、品質を担うエンジニアの皆様にとって、コンデンサの特徴や特性に関する知識を習得することは、たいへん重要です。
コンデンサにはさまざまな特性がありますが、コンデンサが使われる電気的条件や環境によって変化するため、仕様書やデータシートなどの限られた媒体から的確に特性を把握することは困難です。コンデンサの特性を正しくご理解いただくことは、コンデンサを安全にお使いいただくことにもつながります。本編では、事例やデータを交えてコンデンサの特性の基礎知識をご説明します。
目次
~インピーダンス~
インピーダンスは交流電流を流す能力を表す物理量
インピーダンス(impedance)は、交流電流を流す能力を表す物理量で、単位はΩ(オーム)です。インピーダンスの大きさは、抵抗、容量、インダクタンスおよび交流の周波数によって決まります 。「インピーダンス(impedance)」という用語は、ラテン語の「impedire(邪魔する)」から派生した英語の「impede(妨げる)」に由来します。交流が流れる電気回路において、抵抗・インダクタンス・キャパシタンスなどが電流や電圧の流れを妨げることから名付けられました。
抵抗は、直流でも交流でも電流の流れを妨げます。容量は、直流を通さず電荷を蓄えますが、交流を通します。インダクタンスは、磁界を発生させて電流の変化を妨げますが、周波数の高い交流を通しにくい性質があります。またインピーダンスは、電子部品だけでなく電子回路や電子材料の交流特性を表すパラメータとして使われます*01。
*01 人体にもインピーダンスがあり、体内に微弱な電流を流して電気的インピーダンスを測定することで体内の水分量や体脂肪、筋肉量を間接的に求めることができます。金井寛, 「生体電気インピーダンスとその臨床応用」『医用電子と生体工学』 20巻 3号 1982年 p.140-146,
インピーダンスを式で表すと
数学的には、インピーダンスはある周波数における交流電圧と電流の比として表され、実数部と虚数部からなる複素数として式(01)のように定義されます*02。
*02 インピーダンスは、数学的に複素数平面上のベクトル量として扱われます。
抵抗器は直流回路でも交流回路でも同じように動作し、ジュール熱として電力を放散します。抵抗は常に正の値をとり、抵抗値はそのままインピーダンスになります(式(02))。
コンデンサは直流回路では無限抵抗ですが、交流回路では電界としてエネルギーを蓄えて、交流電流の流れにくさ(容量性リアクタンス*03 )を持ち、抵抗としてふるまいます。抵抗のない理想的なコンデンサのインピーダンス(Zc)は容量性リアクタンス(Xc)として式(03)で表わされます。
*03 交流回路でインダクタやキャパシタに電流が流れると、それらの素子に電圧が生じて抵抗のようなふるまいをします。これをリアクタンスと言います。リアクタンスは、素子の特性によって異なり、インダクタの場合は「インダクタンス」、キャパシタの場合は「キャパシタンス」と呼ばれます。リアクタンスの大きさは、素子の種類や周波数によって変化し、周波数が高いほど大きくなります。
インダクタは直流回路ではゼロ抵抗とみなされますが、交流回路では磁界としてエネルギーを蓄え、交流電流に対する流れにくさ(誘電性リアクタンス)を持って、抵抗としてとしてふるまいます。抵抗のない理想的なインダクタのインピーダンス(ZL)は誘導性リアクタンス(XL)のみであるため、式(04)のようになります。
インピーダンスは周波数で変化する
ここで、容量、抵抗、インダクタンスからなる回路(3素子モデル)を考えると(図01)、この等価回路のインピーダンスZは、式(01)、(02)、(03)、(04)を組み合わせた式(05)で表すことができます。
インピーダンスの絶対値/Z/は、式(05)の平方根として、式(06)で表すことができます。
式(06)の角周波数ωを周波数fで置換えると、インピーダンスは式(07)で表される周波数の関数となります。式(07)を用いてインピーダンスの周波数依存性を図示すると図2のようになります。
インピーダンスの周波数特性の模式図
式(07)の容量性リアクタンス(Xc: 1/2πfC)は周波数とともに小さくなり、誘導性リアクタンス(XL: 2πfL)に引き継がれるレベルにまで減少します。XcとXLが等しくなるときの周波数を共振周波数fr(resonance frequency)と呼びます。共振周波数におけるインピーダンスは抵抗成分Rのみになります*04 。このため抵抗成分Rの大きさはインピーダンスの周波数特性に大きく影響します。
*04 デシタル回路では容量の異なるコンデンサを並列に接続することで低域から高域までの周波数に対して幅広く低インピーダンスとして、瞬時にエネルギーを半導体に供給します。(等価直列インダクタンス(ESL)参照)
実際のコンデンサのインピーダンス
図3にアルミ電解コンデンサ、リード線形フィルムコンデンサ、チップ形積層セラミックコンデンサのインピーダンスの周波数特性の例を示します。グラフはV字形もしくはU字形を示しますが、インピーダンスの極小値とその周波数域はコンデンサの種類と容量によってさまざまです。
各コンデンサのインピーダンスの周波数特性
フィルムコンデンサやセラミックコンデンサは、容量性リアクタンスや誘導性リアクタンスの寄与よりも小さい抵抗をもつため、インピーダンス曲線は、鋭いV字型を示します。
アルミ電解コンデンサはフィルムコンデンサやセラミックコンデンサに比べて容量が大きく、抵抗が大きいため、滑らかなU字型の曲線になります*05 。
実際のコンデンサでは、電極や電解質による抵抗やリード線などのインダクタンスが容量に対して直列に寄生しています。これらはそれぞれ等価直列抵抗(Equivalent Series Resistance: ESR)、等価直列インダクタンス(Equivalent Series Inductance: ESL)と呼ばれます*06 。誘電体による真の容量以外に電解質と電極との間の二重層容量や分布容量なども寄生成分として存在し、これらもインピーダンスの構成要素になります。
*05 いろいろなコンデンサのインピーダンス特性のずれを組み合わせることで、周波数帯域の広いノイズフィルタを構成することができます。
*06 「ESR」と「ESL」はスイッチング電流が流れたときに電圧(コモンモードノイズ)を発生させる原因となるため、できる限り小さいものが好まれます。「ESR」「ESL」の詳細は2.3項でご説明します。
- インピーダンスは、交流電流を流す能力を表す物理量です。
- コンデンサのインピーダンスは、抵抗・容量性リアクタンスおよび誘導性リアクタンスから構成されます。
- インピーダンスの周波数特性は、コンデンサによって異なります。
TIPS
理想のコンデンサのインピーダンスは、容量性リアクタンス(XC)の虚数成分(1/ωC)のみですが(式03)、実際のコンデンサには抵抗成分があるため、抵抗(R)がインピーダンスの実数成分になります*07 。インピーダンスを抵抗Rと1/ωC で表した時の角度をδとすると(図4) 、それぞれの関係は式(08)となります。
RとXcのベクトル図
式(08)から tan δとは抵抗と容量性リアクタンスとの比であることがわかります。コンデンサに交流電圧を印加すると,交流電流は 90°進むはずですが、等価直列抵抗成分によって90°-δしか進みません。このズレがコンデンサのエネルギー損失となって発熱します。tan δ は小さいほど良いことになります。
*07 この抵抗を構成する成分は、誘電体の交流抵抗と電極の抵抗などです。誘電体が交流電圧の変化に追従できなくなると誘電体損失を発生させます。これをtanδと言う場合もあります。
インピーダンスを構成する重要な要素 ESR, ESL
図5に当社のアルミ電解コンデンサ (VGR形 定格4700μF 400V)のインピーダンスとESRの周波数特性を示します。前項 (実際のコンデンサのインピーダンス)でご説明したように、低周波数(数kHz程度)では容量性リアクタンスによりインピーダンスは周波数に対して減少します。10kHz付近でインピーダンスとESRがほぼ同じになり、数十kHz以上ではESLによる誘導性リアクタンスでインピーダンスが増大する様子が見られます。実際のコンデンサにはESRとESLが寄生しており、これらはコンデンサの性能に影響を及ぼす重要な要素です。
本項では、ESRとESLの定義と特徴について解説します。
アルミ電解コンデンサのインピーダンスとESRの周波数特性
等価直列抵抗 (Equivalent Series Resistance : ESR)
コンデンサの種類によって程度の差はありますが、ほとんどすべてのコンデンサは数ミリオームから数オームのESRを持っています。
前項で述べたように、ESRは静電容量に直列に寄生する抵抗であり、コンデンサに蓄えられたエネルギーがジュール熱として消費される原因になります。つまりコンデンサのESRが大きいほど、より多くの電力を熱として消費します。たとえば電源平滑回路など大電流が流れる回路では、ESRによって消費される電力量が大きくなり、コンデンサ自身の自己発熱して温度が上がります。著しい温度上昇は、コンデンサに致命的な損傷を与えたり、破壊させたりする可能性もあります。
また温度上昇により経年劣化が進み、実際の損傷や破壊に至らなくても期待寿命が短くなります。このようにコンデンサのESRは、容量や耐電圧とともに重要な特性です。
ESRは一定ではなく、周波数によって変わります
図5で示したようにESRは周波数によって変化します。しかし抵抗は直流でも交流でも同じように動作するため、抵抗には周波数依存性はないはずです。この矛盾は、「コンデンサには、容量に直列に寄生する抵抗だけではなく、誘電損失による抵抗が並列にも寄生している」とする等価回路(4素子モデル, 図6)で説明することができます。
*08 コンデンサの等価回路において、コンデンサの等価容量Cに加えてコンデンサの寄生容量を考える場合があります。寄生容量はコンデンサの電極同士の間や、電極と周囲の導体との間に生じる容量です。この寄生容量は、直列の容量として表され、高周波では重要な役割を果たします。ただし寄生容量はコンデンサの等価回路の中で最も小さい容量であるため、本項では寄生容量を無視して考察しました。
① 容量に誘電損失が並列に寄生する部分のインピーダンス Z1
図6の等価回路で誘電損失が容量に対して並列に寄生する部分(図6a)のインピーダンス(Z1)は、容量のインピーダンスを ZC ,誘電損失による抵抗 Rp として式(09)で表わすことができます。
容量のインピーダンス(ZC)は容量性リアクタンスとして式(10)で表せるので、式(09)および式(10)から Z1 は式(11)となります。
② Z1に直列抵抗 Rsが直列に寄生したときのインピーダンス Z2
図6aに直列抵抗Rsが寄生したときのインピーダンス Z2は、図6bのように Z1にRSを加えることによって、式(12)になります。
③ Z2にインダクタンス L が直列に寄生したときインピーダンス Z
最終的にインダクタンス L が直列に寄生した4素子モデル(図6c)のインピーダンス(Z)は式(13)になります。
ESRは、式(13)の実数部と考えることができ、実数部の第2項に角周波数ωが含まれることから、ESRには周波数特性があると考えることができます。
ESRを構成する要素
式(13)から、ESRは「周波数に依存しない抵抗(RS)」「周波数に依存する抵抗(Rf)」とから構成されていることがわかります。では、それらの抵抗とはどのようなものでしょうか。
a. 周波数に依存しない抵抗(RS)とは?
コンデンサの金属端子、電極、内部配線などがこれに該当します。これらは直流に対しても交流に対しても抵抗としてふるまい、それらのエネルギー損失は、温度や周波数に対する変化は少ないです。ただし、高周波では電極の表皮効果が大きくなり、大電流では端子や内部配線の抵抗損失は無視できません。
b. 周波数に依存する抵抗(Rf)とは?
これには2種類の抵抗があります。
ひとつは、誘電体の分極と緩和に関係した誘電体損失に関わる抵抗(Rd)です。セラミックコンデンサやフィルムコンデンサでは、誘電体の誘電損失が全体のESRの主因です。
もうひとつは、コンデンサが容量と抵抗が複雑に組み合わさった分布定数回路を形成する場合の抵抗(Ro)です。
アルミ電解コンデンサやタンタルコンデンサは、より大きな容量を得るために表面積の大きい多孔体を電極に使っており*09 、その電極に電解液や導電性ポリマーを充填しています。このため、図7に示すような並列の容量と直列の抵抗が組み合わさった複雑な分布定数回路を形成しています。低い周波数ではすべての容量が機能しますが、高周波になるほど深い部分(抵抗が大きい部分)の容量は見かけ上消滅して、抵抗は小さくなります。
*09 アルミ電解コンデンサでは、アルミ箔の表裏両面をスポンジ状もしくはトンネル状に多孔化させています。
耐電圧が概ね160V以下のコンデンサに使われる陽極箔では、立方体状の孔が三次元的につながったスポンジ状の表面を形成しています。表面積は80~100倍に拡大されています。
耐電圧が160Vを超えるコンデンサでは、トンネルピットを深さ方向に整列させます。トンネルピットの直径は約1μm、長さ(深さ)は約50μm程度です。表面のピットの密度(孔の数)は、1cm2あたりで数千万個です。表面積は約30~50倍に拡大されます。
ESRの各構成要素の周波数依存性を正確に表すことは難しいですが、1kHz~10kHz程度以下の低周波では、誘電損失成分 Rd 、数十kHz~数百kHzの中間周波域では、分布回路による抵抗成分 Ro 、1MHz以上の高周波では RS が支配的になると言われており、これを図示すると図2-08のようになります*10。
*10 西谷 電気学会誌 89-7 (970) 1333 分布回路 を形成 す る電 解 コ ンデ ンサの交流特性
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ieejjournal1888/89/970/89_970_1333/_pdf/-char/ja
図9にいろいろなコンデンサのESRの周波数特性を比較しました。フィルムコンデンサはRd とRS が小さくR0 がほとんどないため極めて小さいESR特性を示します。セラミックコンデンサは、 Rd が大きいものの R0とRS が小さいコンデンサです。アルミ電解コンデンサやタンタルコンデンサは3つの要素が大きいためESRは高くなります。
ESRは温度でも変わります
コンデンサのESRは周波数だけでなく温度によっても変化します。ESRの主な構成要素が金属素材であればESRは正の温度特性を示し*11 、半導体の要素であれば負の温度特性を示します*12 。電解液形を使ったアルミ電解コンデンサは、高温ほどESRが低く、低温ではESRが大きくなりますが、その変化は他のコンデンサに比べて大きいという特徴があります。この詳細は次項でご説明します。
コンデンサメーカのデータシートにあるESRは、温度20~25℃、周波数120Hzや100kHzでの値が載っています。しかしコンデンサメーカや品種によっては低温やさまざまな周波数におけるESRを規定している場合があります。このため、アプリケーションの環境温度や動作周波数に対して適切なESRを持ったコンデンサを選定するには、メーカへの問合せが必要です。
*11 セラミックコンデンサやフィルムコンデンサは、銅や貴金属、アルミニウムなどを電極に使用しています。このため、低温では抵抗が低く、高温では抵抗が高くなる正の温度特性を示します。
*12 半導体的な導電性を持つ二酸化マンガンを電極に使うタンタルコンデンサでは、高温でESRが低くなる負の温度特性をを示します。
等価直列インダクタンス( Equivalent Series Inductanc : ESL)
高周波ではESLに要注意
コンデンサの電極、リード線や外部端子は直列に接続された導体であり、それぞれには若干のインダクタンスがあります。インダクタンスは、コンデンサを流れる交流電流の変化に対する抵抗になります。直列に接続された複数のインダクタンスを統合した値を等価直列インダクタンス(ESL)と呼びます*13。
ESLの影響は高周波数でのみ見られ、共振周波数を超えるとコンデンサはインダクタのようにふるまいます*14 。共振周波数は容量性リアクタンス(Xc)と誘導性リアクタンス(XL)が等しくなるときの周波数であるため、式(05)の虚数部がゼロになる式(14)を解くと共振周波数 frを表す式(15)が得られます。
*13 ESLを求めるには、単純に複数のインダクタンスの値を合計するだけではなく、直列に接続された複数のインダクタンスの場合、個々のインダクタンスの値に周波数に関係する係数が掛けられているため、それらの係数を加味して計算する必要があります。
*14 共振周波数はRF回路で重要なファクターです。
式(14)は、インダクタンスが小さいほど共振周波数が高くなることを示しており、図10に示すように低インダンスのコンデンサほど高周波でのインピーダンスが小さくなり、より高いスイッチング周波数の回路で使用できるようになります。
ESLが異なるコンデンサのインピーダンスの周波数特性*15
コンデンサの低ESL化
インダクタンスは誘導電圧スパイクを発生させて、半導体を損傷する危険があります。さらに浮遊インダクタンスと静電容量との相互作用により、回路の安定性と電力品質を損なうノイズが発生します。
高周波で駆動するデジタル回路ではセラミックコンデンサを中心に低ESL化が進んでいます。高速メモリチップやマイクロプロセッサにはたくさんのデカップリングコンデンサが使われます(図11, 12)。これはコンデンサに蓄えられたエネルギーを瞬時に伝達するためです。
マイクロプロセッサの電源ラインに使われるデカップリングコンデンサの例*16
エネルギーが伝達される速度は、コンデンサのESLによって大きく左右され、ESLが大きいと速度は遅くなります。今日のデジタル回路はスイッチング速度が速く、低ESLのコンデンサが要求されます。スイッチング速度の高速化に伴い、低いインダクタンスを持つコンデンサの需要はますます増え続けていくと思われます。
CPU、デカップリングコンデンサ、VRMからなる回路*17,18,19
*17 Decoupling Capacitor - an overview | ScienceDirect Topics
*19 デカップリングコンデンサには低ESR, 低ESL特性が必須です。
パワーエレクトロニクスにおいても、SiCやGaN などの次世代パワー半導体*20の採用によって、ESLの小さいコンデンサが求められています。とくに高周波スイッチングや産業用インバータなどのDCリンク用途では、パワー半導体の保護を強化しながら自己発熱を抑える必要があるためです。さらにESLが小さいコンデンサではピーク電圧のスパイクが減少するため、より低い定格のパワー半導体を使用することができます。またノイズが低減するので、スイッチング電源の出力品質が向上します。
ESLは主にコンデンサ素子の内部構造と接続部に起因し、これらを改良することでESLを低減できます。インダクタンスを低くするには、導体の幅を広くして長さを短くすることが必要であるため、リード線や外部端子の構造やコンデンサ素子との接続方法を改良しています。コンデンサメーカは低ESL化に向けた技術開発を進歩させています。
*20 シリコンが単体の物質であるのに対し、SiCは炭素とケイ素の化合物、GaNはガリウムと窒素の化合物であるため、これらを使った半導体は 化合物半導体 と呼ばれます。
SiCやGaNは破壊電界強度が大きいという特長があり、シリコンと同じ耐圧を、大幅に薄い耐圧層で実現できます。シリコンの次の世代を担うことが期待されるということから 次世代パワー半導体と呼ばれることもあります。
- ESRはコンデンサに蓄えられたエネルギーを熱として消費するため、コンデンサの信頼性に影響します。
- ESRは小さいほど良好ですが、周波数や温度によって変化するので注意が必要です。
- ESLは高周波でスパイク電圧やノイズの原因となるため、構造を改良してESLを低減したコンデンサを使用することが必要です。
アルミ電解コンデンサのESRとESL
図7で示したように電解液を使ったアルミ電解コンデンサは、その構造と材料の性質によって他のコンデンサよりもESRが大きい特徴があります。また円筒形のアルミ電解コンデンサには実装に使用するリード線とコンデンサ素子から導出する内部リード(リードタブ)があるため、高周波でのインピーダンスが大きくなります。
このため、近年では、導電性ポリマーを使ってESRを低くした製品や、複数の平板上の素子を積層させて低ESRと低ESLを実現したチップ形製品がデジタル回路で使われています。
電解液を使ったアルミ電解コンデンサのESRの特徴
デシタル回路だけでなく中高圧のパワーエレクトロニクス回路でも、ESRの小さいアルミ電解コンデンサが好まれます。ESRの大きいアルミ電解コンデンサを使うと電力損失や内部発熱が起こり寿命が短くなるためです。
パワーエレクトロニクス回路では、電解液を使ったアルミ電解コンデンサが多く使用されます。このコンデンサは、陽極、陰極、セパレータ、電解液、リードタブなどから構成されています(図13)。これらのうち、セパレータと電解液はESRに大きな影響を及ぼします。
セパレータは陽極箔と陰極箔が直接接触することを防止し、同時に電解液を保持して電解液の機能を維持します。このため、電解液を蓄えやすい低密度のセパレータが低ESRに好適です*21。
また電解液の粘度と導電率もESRに大きく影響します*22。電解液の粘度が低いほど陽極やセパレータに浸透しやすくなって導電性が高まり、ESRが小さくなります。ただし低粘度で導電率の高い電解液は、耐電圧や寿命を損なうリスクがあるため、コンデンサメーカーはさまざまな技術でこのトレードオフに対応しています。
電解液の粘度と導電率は温度依存性が大きく、低温では粘度が高くなり導電性が低下してコンデンサのESRが大きくなります(図14)。溶媒の種類や溶質のイオン半径にもよりますが、-20℃以下での電解液の導電率は、室温の1/10から1/100程度になります。
*21 セパレータは不純物が少なくて高い吸水性をもつ特殊な紙で作られています。セパレータの厚さはおよそ30〜75μmであり、コンデンサの定格電圧によって異なります。また高圧のコンデンサでは数枚の紙を重ねたものや密度の高い紙を使用することもあります。セパレータには木材繊維のクラフト紙や植物繊維のマニラ紙が使われています。
*22 電解液の導電率は濃度と粘度で決まります。溶解度 が大きく電離度が大きい電解質では電荷密度が大きくなります。粘度 η 〔Pa・s〕が小さい溶媒とイオン半径が小さい電解液では移動度 μ 〔m2/V・s〕が大きくなります。
アルミ電解コンデンサのESRの周波数特性に及ぼす温度の影響
(当社 VGR形 定格400V 4700μF)
アルミ電解コンデンサのESL
ESLは、ESRに比べて周波数や温度に対する変化が少ないパラメーターです。アルミ電解コンデンサ内部の巻回素子自体のESLは通常2nH以下ですが、コンデンサ外部の端子間でESLを計測すると、ラジアルリード形のアルミ電解コンデンサでは10~30nH、ネジ端子形では20~50nH、アキシャルリード型では200nH程度になります(図15) 。このためアルミ電解コンデンサは比較的大きな誘導性リアクタンスを持ち、高周波でのインピーダンスが大きくなります。
高周波スイッチングや産業用インバータなどのDCリンク用途では、パワーデバイスの保護を強化しながら自己発熱を抑えるために、低ESLコンデンサが望まれます。アルミ電解コンデンサのESLは、他の接続部やケーブルなどとともに電圧スパイクの原因となるため、インバータの各相にスナバを配置する必要があります。コンデンサのESLを下げることで、全体のインダクタンスを下げることができ、インバータの各相にスナバ回路を設置する必要がなくなる可能性もあります。
代表的なアルミ電解コンデンサの外観とESL
ESLを低減するには、コンデンサを流れる電流によって発生する磁界を全て打ち消すように内部構造を最適化することが効果的です。具体的には、巻回素子と端子間の距離を短くし、巻回素子の内部リードタブ間および外部端子間の距離を短くすることで実現できます。
インピーダンスのまとめ
コンデンサは容量だけを持つ理想部品ではなく、抵抗とインダクタンスが寄生しています。このためコンデンサにはインピーダンスがあります。
- インピーダンスは、電気回路が交流電流を流す能力を表す物理量で、単位はΩ(オーム)です。
- コンデンサのインピーダンスは、容量性リアクタンス、等価直列抵抗(ESR)および誘導性リアクタンス(ESL)から構成されます。
- ESRは、コンデンサに蓄えられたエネルギーを熱として消費するため、小さいほど好ましい特性です。ただし周波数や温度によって変化するので注意が必要です。
- ESLは主にコンデンサ素子の内部構造と接続部に起因し、高周波でスパイク電圧やノイズの原因となります。
- アルミ電解コンデンサは他のコンデンサよりもESRが大きく、リード線などに起因するESLがあります。
- 市場の要求に応えるため、低ESR・低ESLのコンデンサが開発されています。
TIPS
デジタル回路、とくにデカップリング用のコンデンサではESLを低減したコンデンサが使われるようになりました。
パワーエレクトロニクスでも、DCリンクに高出力領域で高速スイッチングのパワー半導体が使われるようになり、回路と周辺部品の低インダクタンス化が求められるようになりました。これは低ESL化により、性能やコストに多くのメリットがあるためです。今後、フィルムコンデンサやアルミ電解コンデンサの低ESL化は進んでいくことでしょう*23 。
*23 コンデンサに低ESLが求められる主な理由は、
- DCリンク電圧を高くでき、スイッチオフ時や短絡時の電圧ピークを抑制できる
- パワー半導体のコストを削減できる(低電圧駆動のパワー半導体が使える)
- パワー半導体のスイッチング速度が向上し、スイッチング損失が減少する。
- コンデンサバンクのインダクタンスを上げることなく並列接続するコンデンサの数を減らすことができる(コンデンサのリップル電流特性が改善されるため)。
- コンデンサの使用数を減らすことで、組立工数、必要スペース、重量を削減し、システムの小型化と低コストが可能になるためです。
監修/飯田 和幸
エーアイシーテック株式会社 ゼネラルアドバイザー
1956年埼玉県生まれ。
日立化成株式会社、日立エーアイシー株式会社にてコンデンサの製品開発と高機能化、コンデンサ用の金属材料や有機材料開発、マーケティング業務に従事。
広報誌、業界誌、各種便覧等にコンデンサに関する記事を寄稿。
2005年から2015年まで株式会社 日立製作所 技術研修所でコンデンサの使い方に関する講座を担当。
2020年よりエーアイシーテック株式会社 ゼネラルアドバイザー。
- 「タンタル電解キャパシタ」
電気化学会編 丸善 電気化学便覧 第5版 15章 キャパシタ 15.2.4節 b (1998) - 「タンタル・ニオブコンデンサの開発動向と材料技術」
技術情報協会セミナー 2008年6月 - 「鉛フリー対応表面実装形フィルムコンデンサ MMX-EC, MML-ECシリーズ」
日立化成テクニカルレポート 48号 製品紹介 (2007) - 「電子機器用フィルムキャパシタ」
丸善 キャパシタ便覧 第5版 5章 フィルムキャパシタ 5.2項 (2009) - 「新エネルギー用大型フィルムコンデンサMLCシリーズ」
新神戸電機株式会社 新神戸テクニカルレポート 22号(2012)