アルミ電解コンデンサとフィルムコンデンサのアプリケーション(1)
~パワーエレクトロニクスに使われるコンデンサ~

はじめに

パワーエレクトロニクスにおいてコンデンサは、エネルギー貯蔵やフィルター、デカップリングなどの機能に必要不可欠のデバイスです。ただしコンデンサにはさまざまなタイプがあり、同じ静電容量と定格電圧のコンデンサであっても性能は異なります。そしてコンデンサの選択を誤ると、高価な過剰設計になったり、信頼性の低い製品になりかねません。

本稿では、パワーエレクトロニクスに使われる様々なタイプのコンデンサの特徴と機能を説明します。特にアルミ電解コンデンサとフィルムコンデンサのタイプを比較し、それぞれがどのような場面でどのような役割を果たすかをご説明します。具体的には、様々なコンデンサの構造、パワーエレクトロニクスに好適なタイプ、静電容量、リプル電流定格、過渡過電圧 (スパイク電圧)、安全仕様やその他の特性についても詳しく検討します。

目次


パワーエレクトロニクスとは

パワーは「電力」、エレクトロニクスは「電子工学」ですので、パワーエレクトロニクスは「電力の電子工学」と言うことができるかもしれません。つまり、高電圧で大電流を扱うエレクトロニクスです。

ただし大きな電力をそのまま使うことはできないので、使いやすい形に変換したり、制御する必要があります。これらを実現する技術がパワーエレクトロニクスです。すなわち電力のカタチを変えて、電気エネルギーを運動エネルギーや熱エネルギーに変換して利用しています(表1)*01, *02

表1 パワーエレクトロニクスとエレクトロニクスの違い
表1 パワーエレクトロニクスとエレクトロニクスの違い

たとえば、電気自動車は電池でモーターを回転させて走行しますが、パワーエレクトロニクス技術を使って、電池の直流電力をモーターに使える交流電力に変換することで、電池の電気エネルギーをモーターの運動エネルギーに変換しています。つまりパワーエレクトロニクスは、電力のカタチを変え、制御する役割を果たしています。

図1 電気自動車の電気的な構成
図1
電気自動車の電気的な構成*03

電力のカタチを変えるとは?

パワーエレクトロニクスは、電力のカタチを変えて電気エネルギーを利用する技術です。電力のカタチを変えることを電力変換と言います。電力変換には図2に示す4つの基本的なパターンがあります。

図2 電力変換の基本的な4つのパターン
図2
電力変換の基本的な4つのパターン*04
図2 電力変換の基本的な4つのパターン
図2
電力変換の基本的な4つのパターン*04

パワーエレクトロニクスに使われるデバイス

パワーエレクトロニクスは電気エネルギーの効率的な変換と柔軟な制御を可能にする技術です。この技術にはさまざまなデバイスが使われています(図3)。パワーエレクトロニクスが使われる産業用機器では稼働寿命も重要であり*05 、これらのデバイスには10~20年の期待寿命が求められています。

図3 パワーエレクトロニクスに使われるデバイス
図3
パワーエレクトロニクスに使われるデバイス
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パワーエレクトロニクスに使われるコンデンサ

コンデンサはパワーエレクトロニクスのキーデバイス

受動部品は、パワーエレクトロニクス・システムの性能・コストとサイズに大きく影響します。とりわけコンデンサは、図2に示した電力変換のすべてで重要な働きをします。たとえば図3に示すACモータードライブシステムでは、入力から電力変換を経て出力に至るまで、随所にコンデンサが使われています。コンデンサはパワーエレクトロニクスのキーデバイスです。

図4 ACドライブシステムに使われるコンデンサの例
図4
ACドライブシステムに使われるコンデンサの例
①EMIフィルター

コンデンサは電力線EMIフィルターにも広く使用されています。4kVおよび2.5kVに耐える安全規格に対応するポリプロピレン・コンデンサはそれぞれ「X1」「X2」とされ、EMI規格を満たすために数μFの容量をもちます。ラインからグランドへのコモンモードエミッションを減衰させるコンデンサは、8kV定格の「Y1」および5kVの「Y2」タイプです。これらのコンデンサには主にフィルムコンデンサが使われ、低いESL特性により自己共振を高く保つことができます。

②スナバ

コンデンサを使うことでスイッチング波形を意図的に遅くさせて、EMIによる半導体へのストレスを低減することができます。このアプリケーションでは、過大な実効電流による高い電圧パルス(dV/dt)や電圧変化に耐える能力が求められます。これにはポリプロピレンを使ったフィルムコンデンサが有効です(図5)。

図5 スナバーネットワークとコンデンサの例
図5
スナバーネットワークとコンデンサの例
③DCリンクコンデンサ

DCリンクとは整流器やACDCコンバータとインバータとの接続を意味し、直流がインバータに供給されるシステムです。ここに使われるコンデンサはDCリンクコンデンサと呼ばれます。

DCリンクコンデンサは直流電圧を平滑化し安定させたり、負荷バランスをとるエネルギー貯蔵デバイスとして使用されます*07。電気自動車や太陽光発電などのバッテリーを持つ機器では、DCリンクコンデンサは、コンデンサはバッテリーと並列に配置され、インバータ全体の電圧を安定に保つ役割を果たします。また、DCリンクコンデンサは、瞬間的な電圧スパイク、サージ、EMIからインバータネットワークを保護するのに役立ちます。ノイズは、パルス状のインバータ電流とDCバス上の浮遊インダクタンスの結果です。

図6 DCリンクとコンデンサ
図6
DCリンクとコンデンサ
④パワー・フィルター

インバータやモータードライブでは、出力部にコンデンサを配置することで、高いリプル電流を除去し、高いdV/dtレベルがストレスやEMIの原因となるのを防ぎます(図7)。ここでは交流電流が出力されるため無極性のコンデンサが必要です。アルミ電解コンデンサを使用することはできません。また動作環境が厳しい場合が多く、ポリプロピレン形フィルムコンデンサの耐電圧と耐リプル性能が必要とされます。

図7 BLDCモータードライブのパワーフィルターとコンデンサ
図7
BLDCモータードライブのパワーフィルターとコンデンサ

パワーエレクトロニクスにおけるコンデンサの要件

コンデンサの基本的なアプリケーションは、エネルギー貯蔵、バッファリング、フィルター、デカップリング、EMI対策などです。コンデンサは充放電機能を活かしてエネルギー供給、電流に含まれるリプル電流の抑制などを行います。コンデンサには、これらを実現するためのいくつものファクターがあります(図8)。

図8 コンデンサの主なファクター
図8
コンデンサの主なファクター

またパワーエレクトロニクス機器には、出力エネルギーの大きさやサイズ、信頼性レベル、使用環境、許容されるコストなどの条件があるため、コンデンサには、図9に示すさまざまな要件が求められます。

図9 パワーエレクトロニクスにおけるコンデンサの要件
図9
パワーエレクトロニクスにおけるコンデンサの要件

パワーエレクトロニクスにおける課題のひとつは、電力変換効率の向上です。このため新しいシステムやコンポーネントの開発が進んでいます。現在のSi系半導体に代わってワイドバンドギャップ(WBG)半導体(SiCやGaNなど)を採用する傾向はその典型です。

これらのトレンドは、パワーエレクトロニクスで使用されるコンデンサに対する要求を変化させています。より高いスイッチング周波数でも高いリプル電流除去能力を持つ低損失性能、GaN (~650V)、SiC (~1700V)等の高い動作電圧に対応できる高耐圧性能、そして125℃、150℃等の高温下でも安定して使用できる耐熱性と耐候性などです。

現在の技術でこのような要件を実現できるソリューションには、積層セラミックコンデンサ、アルミ電解コンデンサ、蒸着電極形フィルムコンデンサがあります。

コンデンサの特性は誘電体の性質に大きく依存するためです。さらにコンデンサには連続的な動作電界に制限があるため、それぞれのコンデンサはエネルギー密度による棲み分けがあります(図10) *08

図10 各誘電体の実用電界強度・比誘電率・エネルギー密度の関係
図10
各誘電体の実用電界強度・比誘電率・エネルギー密度の関係

Al2O3 : 酸化アルミニウム(アルミ電解コンデンサ)
BOPP : 二軸延伸ポリプロピレン(フィルムコンデンサ)
TiO2 : 酸化チタン(温度補償型セラミックコンデンサ)
SrTiO3 : チタン酸ストロンチウム(セラミックコンデンサ)

図6からはアルミ電解コンデンサが最も優れたコンデンサに見えますが、動作温度や等価直列抵抗などの要因を加味すると他のコンデンサにもメリットがあります。それぞれのコンデンサの特徴と性能を次項で説明します。

積層セラミックコンデンサ

概要と構造

積層セラミックコンデンサは、誘電体のセラミックス層を電極とともに積層させたコンデンサです。1nFから最大で1000µFの容量範囲をカバーしさまざまな電子回路に使われています。

図11 積層セラミックコンデンサの外観イメージ
図11
積層セラミックコンデンサの外観イメージ
特性・特徴

積層セラミックコンデンサは、小型で高い交流電流と200℃に迫る動作温度が可能です。ただしパワーエレクトロニクスに適した高耐圧仕様では、容量は最大数十μF(500V)と小さく、大きな容量を得るには員数を多用して並列接続する必要があるため、コスト高になります。また直流電圧に対して容量が変化したり、応力や衝撃に対する耐力に注意が必要です。近年、機械的ストレスに強い製品が開発され、車載機器を中心に広がりを見せています。

アルミ電解コンデンサ

概要と構造

アルミ電解コンデンサは素子の構造の特異性から、他のコンデンサに比べて単位体積当たりの容量が大きいため、エネルギーの体積密度が高く(最大約1J/cm3)価格も優位です。パワーエレクトロニクスシステムでは、大きな比表面積を持つ電極と誘電体からなる陽極箔をセパレータと陰極箔とともに巻回し、電解液を含浸させたタイプが使われます(図12)。

図12 アルミ電解コンデンサの外観と素子の構造
図12
アルミ電解コンデンサの外観と素子の構造
特性・特徴

湿式電解質を使用したタイプは、低温になるほどESRが大きく上昇し、EMIフィルターとの高周波のアプリケーションには不向きです。また定格電圧が350Vを超える場合、105℃を超える動作温度は実用的ではありません。固体の導電性ポリマーと湿式電解液を併用したものもありますが、350Vを超えるような高電圧では使用できません。現在の技術では、定格電圧・動作温度範囲・ESRにトレードオフがあり、これらのパラメータを同時に最適化することが困難です。このためアルミ電解コンデンサを使用する場合は、これらを考慮した設計が必要です。

図13 アルミ電解コンデンサのESRの周波数特性に及ぼす温度の影響(当社 VGR形 定格400V 4700μF)
図13
アルミ電解コンデンサのESRの周波数特性に及ぼす
温度の影響(当社 VGR形 定格400V 4700μF)

蒸着電極形フィルムコンデンサ

概要と構造

フィルムコンデンサは、有機フィルムを誘電体とし、アルミニウムなどの金属箔や蒸着膜を電極としたコンデンサです。図14に示すように電極を形成したフィルムをペアにして巻き取ることでコンデンサの素子が作られます。温度や周波数に対して容量が安定しており、耐電圧が高く、低ESR・低インダクタンスの特長があります*09

図14 蒸着形フィルムコンデンサの素子の構造(左)と巻取りのイメージ(右)
図14
蒸着形フィルムコンデンサの素子の構造(左)と巻取りのイメージ(右)

コンバータやインバータでは、電極に蒸着電極を使用したタイプが使われます。蒸着電極はフィルムの片面もしくは両面に極めて薄く形成されています。フィルムは主として延伸されたポリプロピレンが使われ、2~5μm程度の非常に薄い誘電体として機能します。

特徴・特性

フィルムコンデンサは無極性であるため、交流回路でも使えます。また他のコンデンサに比べて、より長い寿命を持ち、信頼性が高く、経年変化が緩やかです。ESR値、ESL値が低いため、損失係数が非常に小さい。キロボルト級の電圧に耐え、非常に高いサージ電流パルスを供給することができます*10

蒸着電極形フィルムコンデンサは、耐電圧・ESR・低温を含む温度範囲、耐久性などの高電圧DCリンクの要件に対して、最もバランスの取れた特性を提供しています。また、図10からフィルムコンデンサはアルミ電解コンデンサよりも誘電体の比誘電率が小さいものの、実用電圧が高いためパワーエレクトロニクスにおける有力なソリューションと言えます。しかし容量が数百~1000μFのフィルムコンデンサは、1~2リットルの容積を占め、インバータの中で圧倒的に大きな部品としてインバータの体積を決定してしまいます。このためエネルギー密度の低さが大きな課題です。

アルミかフィルムか? 選択のポイント

アルミとフィルムを比べると

フィルムコンデンサは耐電圧が高い

フィルムコンデンサは、フィルムの厚みによって定格電圧が決まり、ポリプロピレンフィルムを使ったものは最大で数kVの耐電圧が得られます。アルミ電解コンデンサの定格電圧は、酸化膜の厚さと電解液の性質によって制限され600V程度が上限です。

フィルムコンデンサは特性のバランスがよい

フィルムコンデンサは,温度による静電容量の変化が少なく、リプル電流による発熱も小さく、電極構造の特長から電流経路が短いため*11ESLが低く、通常数MHzまでの広い周波数帯域で使用することができます。アルミ電解コンデンサは誘電損失が大きく、複雑な細孔にイオン導電性の電解液を充填させた構造を持つためESRが大きく、温度や周波数によって容量が変化します*12

この結果、アルミ電解コンデンサはリプル電流の除去能力が制限されます。さらに電解液が他の材料と相互作用することで、電気特性が経時変化し、寿命末期以降の故障率が高くなります。このため、パワーエレクトロニクスシステムの動作プロファイルに基づいた寿命計算が必要になります。

アルミ電解コンデンサは圧倒的に小さくエネルギー密度が高い

コンデンサを選択するときには、性能だけでなく部品のサイズも重要です。アルミ電解コンデンサは、フィルムコンデンサよりも小型で実装効率が高いコンデンサです。1000μF/600Vのアルミ電解コンデンサは、同じ定格のフィルムコンデンサに比べて体積比で約1/3です*13

表2 定格600V 1000μFのコンデンサのサイズとエネルギー密度*14
表2 定格600V 1000μFのコンデンサのサイズとエネルギー密度
価格はアルミ電解コンデンサが有利だが

価格も重要な要素です。同じ定格のフィルムコンデンサとアルミ電解コンデンサを比較すると数倍以上のコスト差があり、部品コストだけで考えると、アルミ電解コンデンサが優位です*15

しかし、アルミ電解コンデンサでは分圧抵抗や保護抵抗などの付加回路が必要になる場合があります。フィルムコンデンサではこのような外付け部品しほとんど必要ありません。アルミ電解コンデンサの寿命を延ばして安定に使うために水冷機構が設けられることもあります。

コンデンサの選択にあたっては、特性・信頼性・サイズ・コストなどの多くの要素を考慮する必要があります。そのため、設計の初期段階から知識と経験が豊富なサプライヤーを選択し、その専門知識を活用することは極めて重要です。当社はパワーエレクトロニクス用途に特化したコンデンサの専門メーカです。

故障モードの違い

パワーエレクトロニクスシステムにはさまざまなデバイスが使われますがコンデンサは半導体に次ぐクリティカルなデバイスです*16。このためコンデンサにはより高い信頼性が求められます。

適切なディレーティング(定格低減)を行えば、アルミ電解コンデンサとフィルムコンデンサの理論上の故障率は同程度です。ただし過負荷や高温下などの動作環境によっては摩耗故障が急速に進行して、破壊的な故障を招く危険があります*17。フィルムタイプは限られた時間内であれば、定格電圧に2倍の電圧を許容します。フィルムコンデンサに絶縁破壊や過度の電流パルス(高dU/dt)等の異常が発生すると、蒸着電極や集電電極の接点が損傷し、容量減少やオープン故障を引き起こします。ただし故障個所に電流が集中するとプラズマアークが発生し故障個所を電気的に切り離して短絡を解消します(セルフヒーリング)。しかしこれは故障個所の大きさや数によっては機能しない場合があり、フィルムの炭化によるカーボンの析出や重なり合った誘電体フィルムが損傷すると、破壊的な故障が発生する可能性があります。

アルミ電解コンデンサは通常定格電圧の120%の過電圧しか耐えられません。アルミ電解コンデンサに過度なストレスを加えると、短絡してケースや封口部が破損したり、電解液が漏れ出して他の部品への損傷させたり、配線パターンを短絡させたりします。アルミ電解コンデンサの誘電体が劣化損傷すると、短絡・オープン、あるいはその中間、例えば漏れ電流の増大となります。アルミ電解コンデンサが過熱し、電流が流れ続けると電解液の沸点以上に内部温度が上昇して、内圧によって圧力弁が開き、電解液が漏れ、素子が干上がってしまうことがあります。

表3 パワーエレクトロニクスに使われるコンデンサの故障モードの違い
表3 パワーエレクトロニクスに使われるコンデンサの故障モードの違い
コンデンサを選ぶポイント

現在の技術ではシステムの要件を完璧に満たすコンデンサはありません。このため、コンデンサを選定する際には表4に示す各コンデンサの特徴と考慮することが必要です。当社はアルミ電解コンデンサとフィルムコンデンサの専門メーカですので、選定の際にはぜひお当合わせください。

表4 パワーエレクトロニクスに使われるコンデンサの比較
表4 パワーエレクトロニクスに使われるコンデンサの比較

アルミかフィルムか、ケーススタディ

AC/DCコンバータのフォルトライドスルー*18

力率補正されたフロントエンドを持ち、効率90%、1kW、内部DCバスの電圧が公称400VのAC-DCコンバータを例にとって考えます(図15)。

図15 アルミ電解コンデンサによるフォルトライドスルー
図15
アルミ電解コンデンサによるフォルトライドスルー

瞬間的な停電が発生して電圧レベルが急激に低下すると、DCバス上のコンデンサはコンバータが電力を出し続けるためにエネルギーを放出してサポートします。t 秒間の停電が起きて、コンバータの電圧がVnからVdに低下すると、コンデンサは式(1)で表されるエネルギーΔPをコンバータに供給します。このエネルギーは、コンバータの出力電力Poと時間t の積を効率ηで割ったものと等しくなります式(2) *19

効率90%、出力1kW、内部DCバスの電圧が公称400Vとして、このアプリケーションに適合する容量を計算すると634μFとなります。

このアプリケーションに当社の基板自立(スナップイン)形アルミ電解コンデンサHU形定格450V 680μFを選ぶと、その体積は約35cm3(Φ30×L50)です。一方でここに当社フィルムコンデンサMKCP4形で代用して同等の容量を得ようとすると、並列に7個必要となり総体積は約5倍の155cm3となります*20。すなわちこのアプリケーションでは、体積エネルギーが大きいアルミ電解コンデンサを選択することが有効と言えます。

AC/DCコンバータのフォルト・ライド・スルー

次にDC400Vバス上のリプル電圧を最小化するために使用するコンデンサの選定を考えます。このときのコンデンサの容量は式(3)で概算できます。たとえば、コンバータの周波数を20kHz、最大リプル電圧4Vrms、リプル電流80A rmsとすると、必要な容量は約160μFとなります*21

このアプリケーションに適用するコンデンサの候補として、当社の基板自立形アルミ電解コンデンサZR形定格450V180µFと当社形樹脂ケース形フィルムコンデンサMKCP4形の定格700V80μFを考えます(図16、表5)。

図16 ZR形(左)、MKCP4形(右)
図16
ZR形(左)、MKCP4形(右)

ZR形は、MKCP4形よりかなり小型ですが、許容リプル電流が小さく温度と周波数補正を加味してもMKCP4の1/10程度です。このため80Armsのリプル電流に対応するには約34個のコンデンサを並列にして使用する必要があります。この場合、総容量は6120µF、体積は約748cm3にもなるため回路の小型化の観点から有効な選択とは言えません。

MKCP4形を選択すると5個並列で対応できると見積もれ、総体積はZR形を使用した場合よりも小型化が可能です*22。またMKCP4のESRは数mΩのレベルであるため、損失も少なくできます。

表5 コンデンサの選択のケーススタディ
表5 コンデンサの選択のケーススタディ

コンデンサの選択では、物理的な体積や損失よりもコストが重視される場合があります。コストの評価基準として、エネルギーあたりのコスト*23とリプル電流あたりのコスト*24を比較すると、アプリケーションが必要とするの要件によって選択するコンデンサの価値が異なります。使用する量が多いときには、コストの絶対値は下がる可能性がありますがが、両者のコストの比率は変わらないかもしれません。


監修/飯田 和幸
エーアイシーテック株式会社 ゼネラルアドバイザー

1956年埼玉県生まれ。
日立化成株式会社、日立エーアイシー株式会社にてコンデンサの製品開発と高機能化、コンデンサ用の金属材料や有機材料開発、マーケティング業務に従事。
広報誌、業界誌、各種便覧等にコンデンサに関する記事を寄稿。
2005年から2015年まで株式会社 日立製作所 技術研修所でコンデンサの使い方に関する講座を担当。
2020年よりエーアイシーテック株式会社 ゼネラルアドバイザー。

【主な寄稿・登壇実績】
  • 「タンタル電解キャパシタ」
    電気化学会編 丸善 電気化学便覧 第5版 15章 キャパシタ 15.2.4節 b (1998)
  • 「タンタル・ニオブコンデンサの開発動向と材料技術」
    技術情報協会セミナー 2008年6月
  • 「鉛フリー対応表面実装形フィルムコンデンサ MMX-EC, MML-ECシリーズ」
    日立化成テクニカルレポート 48号 製品紹介 (2007)
  • 「電子機器用フィルムキャパシタ」
    丸善 キャパシタ便覧 第5版 5章 フィルムキャパシタ 5.2項 (2009)
  • 「新エネルギー用大型フィルムコンデンサMLCシリーズ」
    新神戸電機株式会社 新神戸テクニカルレポート 22号(2012)